今朝「パリも恋人も、さようなら世界で相次ぐ『脱出』現象」という記事タイトルに目が
留まりました。
もちろん、「パリ」や「恋人」という艶っぽい響きにではなく、世界中で脱出現象が展開さ
れているという後半の文章に注目したのです。
COVID-19 が、わたしたちの社会を着々と変革しつつあるらしいぞ、と。
突然ですが、わたしがこの世に生を受けたのは、東洋の奇跡たる高度経済成長がピークに達
した頃です。近代化と都市化の勢いすさまじく、華やかな都市に人々は憧れ群がりました。
わたしが大人になったころは、バブル経済はすでに破裂していましたが、グローバル経済が
大きく花開き、社会はなお活気に満ちていました。時任三郎が「24 時間、戦えますか」と
栄養ドリンクを宣伝していた。より多く、より大きく、より長く、より高く、人々は、貪欲
に働きまくり、遊びまくり、お金を使いまくっていた。社会は貪欲に商品を作りだし、売り
まくり、経済活動をフル回転させていた。セブンイレブンはその名称とは裏腹に 24 時間営
業となった。
まとめると、わたしの人生の前半、日本社会は右肩上がりのお祭り騒ぎだったのです。
今となっては、当時の空気感を思い出しただけで疲れる。まさに栄養ドリンクが必要な世界
...。
人生の後半に入ると、日本社会は、経済の低迷に伴って猛々しい熱気を沈下させていきまし
た。
ここ十数年は反都市化の流れがじわじわと進展しつつあったのも確か。
それがいま COVID-19 によって、お祭り騒ぎがガツンと鎮圧され、さらに社会の新しい空
気感が着々と醸成されているようです。
冒頭に紹介した新聞記事に書かれていたのは、文字通り、都市から地方へ移住する人が増え
ているという話です。
東京から地方へ移住する人が増加しているのは最近よく報道されていますが、その現象が
アメリカやフランスでも起きているという内容。
感染リスク、医療崩壊、外出禁止令からの脱出といった、新型コロナからの直接的な逃避が
一つの理由としてある。
しかしより重要なのが、テレワークの進展により、居住環境の良い田舎暮らしが現実的にな
ってきたことも紹介されています。
地方に住むことで、家賃が半減、部屋は広く、物価は安く、近所づきあいも充実し、空気が
新鮮だと書かれています。
さらにこれは日本の例に即してですが、企業の本社機能の移転が進展しつつあることにも
言及されています。
潮目が変わった。
ここ十数年、「ロハス」や「田舎暮らし」といった語彙に代表されるように、反都市化・反
近代化への流れがじわじわと浸透してきたことを肌で感じてはいました。それがいま、新型
コロナの影響により、世界的に加速しつつあるようです。
もしかすると単なる一過性の現象ではなく、われわれはより本格的な、世界的・歴史的社会
変革を目撃しているのかもしれません。
周りを見渡すと、セブンイレブンは再び営業時間を短縮し始めました。電車の終電も繰り上
がりました。
時代は「働き方改革」。もはや、より多く、より大きく、より長く、より高く、栄養ドリン
クを飲んで戦い続ける時代ではない。
都市でお祭り騒ぎをするよりも、地方でのんびりと豊かに暮らしたい人が増えつつある。
COVID-19 の嵐は、歴史的にみると、わたしたちの行き過ぎた都市化(そして近代化や経
済活動)を是正するための苦いお薬であったと結論付けられるかもしれませんね。
わたしも長く生きてきたなあ。都市化する栄養ドリンクの社会と、反都市化するロハスな社
会をリアルタイムで経験しているとは...。
今朝は新聞を読みながら、時代の流れをしみじみと回想したのでした。
朝日新聞デジタル版, 2020.11.27,「パリも恋人も、さようなら 世界で相次ぐ『脱出』現象」,
連載「共生のSDGs コロナの先の 2030」.
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