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ファストファッションの行方

こんにちは、西谷内博美です。今回はファストファッションについて考えてみ

たいと思います。


ファストファッションとは「流行を採り入れつつ低価格に抑えた衣料品を、大

量生産し、短いサイクルで販売するブランドやその業態のこと」です(知恵

蔵)。たとえば、ユニクロ、GAP、ZARAといったブランドのことです。おしゃ

れで、質もそこそこ良く、なおかつプチプラ。わたしたち消費者には嬉しい限

りです。


そんなファストファッションが広く社会問題化されたきっかけの一つとなった

のが、2013年にバングラデシュのダッカで起きたラナ・プラザ崩落事故です。

1000人以上の死者と、2500人以上の負傷者を出しました。当時、悲惨な映像が

ニュースで報道されましたね。縫製工場が入る8階建てのビルがぐちゃぐちゃ

に崩壊し、そこで生き埋めになった人々。縫製工員であったお母さんを亡くし

た小さな子供と、娘を失ったその子供のおばあさんが抱き合って泣きじゃくる

姿が印象的でした。そして運よく助け出された工員たちも、手足が切断された

り、下半身麻痺になったり、事故の精神的トラウマを抱えたりして生きていま

す。しかも十分な被害補償もありません。


崩壊の前、ビルには亀裂が入り、崩壊の予兆があったそうです。工員たちは怖

がって逃げ出そうとしたのですが、棒で叩かれたり、給料を支払わないと脅さ

れたりして、無理やりビルの中に戻され、仕事をさせられていたそうです。縫

製工員といえば、若い女性が多かった。妊娠していた人や、子供を持つ人も多

かったでしょう。幼い子供を残して、しかもビルに潰されて亡くなるなんて、

どれほど無念で恐ろしかったことでしょう。いったい誰がそんなひどいことを

したのでしょうか?


ラナ・プラザでは、ベネトンやマンゴなどの商品が製造されていたようです

が、この際どのブランドなのか、ということが本質的な問題ではありません。

わたしたちがここで捉えるべき本質は、ファストファッションという現象の構

造です。その構造のなかではどのブランドでも同じことが起きうるのです。


バングラデシュの縫製工場からしてみると、ライバル工場よりも少しでも安く

早く納品しなくては、ファストファッションブランドの注文を受けられませ

ん。選択権は先進国のバイヤーにある。だから彼らは競って、様々なコストを

削り、できるだけ安く早く縫製しまくるのです。そこで削られたコストが、ラ

ナ・プラザ崩落事故の場合、ビルのメンテナンスコストであり、従業員の命を

守るための安全対策コストだったわけです。


一般的に、プチプラでおしゃれな服を作るために削られているコストはそれだ

けではありません。環境汚染を防止するためのコスト、環境汚染が起きてし

まった場合に環境を回復したり、被害者を救済したりするためのコスト。従業

員に適正な労働時間と賃金を確保するためのコストなどが削られています。都

合の良いことに(?)、途上国はガバナンスが弱いため、環境法や労働法が

あったとしても、それらをしっかり運用することができません。言い換える

と、途上国とは、違法な環境汚染や劣悪な労働条件が容認される世界なので

す。そういう世界の存在に、ファストファッションという現象は依存していま

す。


次に、先進国のファストファッションブランドの立場に立ってみましょう。今

シーズン流行の、ちょうど同じような質感のTシャツが、GAPでは980円、ZARA

では2890円で売っていたら、多くの人がGAPで買いますよね。選択権は消費者

にある。ライバル企業に負けないように、消費者に選んでもらえるように、

ファストファッションブランドは、良い商品をできるだけ安く提供したい。

よって、様々な環境的・社会的コストを削ることが容認される世界、すなわち

途上国でTシャツを製造するしかないのです。そして、途上国の中でも、でき

るだけ安く・早く作れる工場に注文を出すのです。


このように、ラナ・プラザ崩落事故を大きく引いて見渡すと、驚愕の真実にた

どり着いてしまいます。逃げ出そうとした工員を崩落するビルに押し戻してい

たのは、他でもない、プチプラでおしゃれを楽しむ私たち、先進国の消費者

だったのです。できるだけ安く、できればシーズンごとに軽く流行りを取り入

れたい。そんな消費者のイノセントな思いが、膨大な数で結束し、ファスト

ファッションという現象をがっちりと下支えしているのです。


このようなファッション業界の構造にメスを入れるべく、最近では、エシカル

ファッション、グリーンファッション、サスティナブルファッションといった

言葉が市民権を得るようになってきました。国連でも2019年に「持続可能な

ファッションのための国連アライアンス(UNASF)」というイニシアティブが

立ち上がり、「ファッションがたどる道筋を変え、その環境と社会への悪影響

を減らす」ために活動しています(国連広報センター 2019)。たしかに、

ずっとこのままで良いはずはない。私たちとファッションの関係は、今後どの

ように変わっていくのでしょうね。ファッショナブルでないことこそ、むしろ

オシャレ、みたいな価値観が生まれたりして…(ややこしい!)。


国連広報センター, 2019,「『持続可能なファッションのための国連アライア

ンス』とは?」(22.2.22取得, https://www.unic.or.jp/news_press/features_backgrounders/33203/).

伊藤和子, 2016,『ファストファッションはなぜ安い?』コモンズ.

長田華子, 2016,『990円のジーンズがつくられるのはなぜ?――ファスト

ファッションの工場で起こっていること』合同出版.

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