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ポストコロナの世界

こんにちは、西谷内博美です。今回は予定を変更して、いま世界で猛威を振るっている新型コロナウィルスの社会影響について、思うところを書いてみたいと思います。

みなさまは、この時期をいかがお過ごしですか? 経済上もしくは健康上の被害を受けた方々には、心よりお見舞い申し上げます。医療従事者、公務員、その他エッセンシャルワーカーの方々には、心より感謝申し上げます。

連日報道されるニュースをみて、ウィルスがこれほど恐ろしいものかと、日本で、世界で、刻々とエスカレートとしていく事態に日々驚いております。 1月初旬、中国の武漢で原因不明の肺炎が発生しているらしいとの報道をはじめて目にしたとき、これほどまで大きく世界が巻き込まれることを予測できた人はどれほどいたでしょうか。無症状で感染させるというウィルスの巧みな戦略により、ウィルスはたちまち宿主を世界に拡大させ、わたしたちの生活を一変させてしまいました。

身近なところでは、仕事ができない、遊びに出られない、家族や友人に会えないといったプライベートな、しかし世界人口がほぼ同様に経験している大きな変化があります。 半径を広げてみると、疫学と経済学の原理が鋭く対立し、社会のマネージメント能力がギリギリと試されています。グローバル経済のあり方、民主主義のあり方、国家協調のあり方といった、社会の根本問題がきびしく問いなおされているのです。

感染症のパンデミックというものは、歴史をふりかえると、これまでも人間社会を大きく変化させてきたようです。とくに中世にヨーロッパで猛威を振るったペストは、封建制度を解体し、また教会の権威を失墜させ、それまでとは全く異なる「近代社会」を生み出すことに寄与したという説があります(山本 2016)。すなわち、わたしたちがよく知る、民主主義・資本主義を基礎とする「近代社会」は、ペストによって、あるいはそれを一つのきっかけとして生み出された「ポストペスト」の世界ということになります。

ペストの歴史分析について、わたしは「へえ、ほう」と聞き入るしか能がありません。し かし、コロナがいま時代を揺り動かしていることについては、変化への胎動を肌で感じています。


たとえばテレワーク。「働き方改革」と言われて久しいですが、その進捗は亀の歩みでした。しかし、新型コロナウィルスの登場により、ほんの1~2か月で、社会全体が一気にテレワーク仕様にバージョンアップしてしまいました。面倒だろうと、お金がかかろうと、仕事効率が下がろうと、多くの個人や組織がテレワークを採用せざるを得ない状況に迫られたからです。「ポストコロナ」の世界では、再び通勤ワークが復活するでしょう。それでも、育児や介護のために、あるいは通勤ラッシュ解消のために、その他多様な働き方を実現するために、テレワークを活用する可能性が大いに開けたのです。

ポストコロナの世界についてさらに想像してみるならば、個人的には持続可能な社会への変革が加速すると予想しています。コロナ以前からも、とくに1970年代以降、環境的制約による「近代社会」の限界は認識されてきました。人間至上主義、大量生産大量消費、右肩上がりの経済成長、そういった近代化の歪みをいかに調整できるのか、持続可能な社会がいかに可能なのか、これまでも長く議論されてきました。


しかし「大人は何もやっていない、ハウデアユー」と高校生に一蹴されてしまうほど、たしかにわれわれの社会は抜本的な変革を起こしてこられなかった(そういうグレタさんも、清潔な服を着て、明日の食べ物の心配がなく、十分な教育を受け、自由に意見を表明できる、近代化の恩恵を多分に受けた先進国の住人です。なので、ハウデアアスが正解ですね)。


ところがいま、新型コロナウィルスという外敵圧力により強制的に、世界全体で経済活動が劇的に抑えられ、人間の社会生活が大きく縮小しました。結果、期せずして環境が改善されたとのニュースが各地から寄せられています。イタリアのベネチアでは「濁っていた運河が透き通り、水の底が見えるようになった」(朝日新聞 2020.4.19)。インドのパンジャブ州では大気汚染が改善され、それまで見えなかったヒマラヤ山脈がはっきり眺望できるようになった(朝日新聞 2020.4.18)。さらには、今年度の二酸化炭素排出量が世界で5%以上減少すると予測されており、それは70年来の快挙だそうです!(Reuters2020.4.3)

よく指摘されているように、これらの環境改善効果は一過性のもので、コロナ圧力が過ぎ去れば、元に戻ってしまうでしょう。それでもわたしたちは、どれほどの苦痛と引き換えに、ローカルまたは地球規模の環境改善がなしうるのかを知りました。これまでの対策とは異次元の、つまり人間の活動を停止させるほどの大きな社会変化によって、効果的に環境を回復しうることが、誰の目にもハッキリ見えたのです。この大衆啓発効果は、のちに意外と効いてくるのではないかと思っています。

また、不幸なことではありますが、新型コロナウィルスの問題は長期化すると言われています。今後、第二波、あるいは第三波のパンデミックに備え、移動を抑えた暮らし方の工夫が世界各地で展開されていくでしょう。危ういグローバル経済を見直し、ローカルな足場を固めようとする動きが進むことも予想されます。それとは反対に、世界協調の体制が強化されることも予想されます。なぜならば、今後も頻発しうるパンデミックを管理するためには、途上国への支援等地球規模の対策が不可欠だからです。このように様々なレベルにおいて、これまで必要性が認められながらも歩みの鈍かった社会変革が、否応なくつぎつぎと強いられていく。そんなポストコロナ世界への胎動を感じる今日この頃です。

誰にとっても比較的好ましく、フェアで穏やかなポストコロナの世界が実現することを祈りつつ、わたしは目下オンライン授業の準備に大わらわです。はじめての遠隔授業を滞りなくマネージできるのか心配ですが、やるしかない。ポストコロナの世界に向けて、レッツ・バージョンアップ! --------- Reuters 2020.4.3「Coronavirus could trigger biggest fall in carbon emissions since World War Two」 朝日新聞 2020.4.18「あれ?ヒマラヤが見える インドの外出制限、思わぬ影響」 朝日新聞 2020.4.19「野生動物、澄んだ水、青い空… 人影消えたら現れた」 山本太郎, 2016, 「人類が直面する新たな感染症の脅威」帝国書院『世界史のしおり  2016年3学期号』, 9-11.

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